大判例

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前橋地方裁判所 平成9年(行ウ)13号 判決

原告

石野修身

右訴訟代理人弁護士

戸丸良七

被告

群馬県知事 小寺弘之

右指定代理人

清野正彦

小田切敏夫

立花宣男

山畑昌子

瀧野嘉昭

吉田修

石川裕士

高澤延之

事実及び理由

第三 争点に対する判断

まず、争点1の原告適格、すなわち原告が本件売渡処分の取消しを求めるについて法律上の利益を有する者に該当するか否かにつき以下検討する。

一  一号買受適格について

1  農地法三六条一項一号によれば、一号買受適格を有する者とは、「その土地が小作地又は小作採草放牧地である場合には、その土地につき現に耕作又は養畜の事業を行なっている者(中略)で、自作農として農業に精進する見込みがあるもの(後略)」である。

そこで、右要件の具体的内容について考察するに、<1>耕作者による農地取得の促進及び耕作者の権利保護等により耕作者の地位の安定及び農業生産力の増進を図るという農地法の目的(同法一条)、<2>同法の「小作地」とは「耕作の事業を行う者が所有権以外の権原に基いてその事業に供している農地」をいうこと(同法二条二項)、<3>同法三条が、農地について永小作権、使用貸借による権利、賃借権等の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、省令で定めるところにより、農業委員会の許可を受けなければならないと規定して、不適正な耕作者に農地耕作に係る権利が移動することを防止していることに鑑みれば、一号買受適格を有する者とは、当該農地を耕作する所有権以外の権原(永小作権等)を有し、その設定等につき、農地法三条(旧農地調整法四条)所定の許可等を得て、現に耕作している者であることを要し、単に事実上当該農地を耕作しているに過ぎない場合を含まないものと解するのが相当である。

2  ところで、原告は、国(農林省)が勝司に対して本件土地について委任、信託、寄託又は事務管理による占有権原を付与したので、勝司の死後に同人を承継した原告には一号買受適格が認められると主張する。

しかしながら、寄託物を「相手方の為めに保管」するに過ぎない受寄者や、本人の利益と意思に反しない限度でその支配領域に対する干渉が許されるに過ぎない事務管理者には、その性質上一号買受適格の要件である「農地を耕作する所有権以外の権原」は認められず、寄託や事務管理を一号買受適格の理由とする原告の主張は失当である。

また、国(農林省)が勝司に対して本件土地について委任又は信託による占有権原を付与したとの原告の主張については、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

3  以上のとおり、原告には、本件土地の一号買受適格は認められないから、これに基づき本件売渡処分の取消しを求める法律上の利益を有するということはできない。

二  三号買受適格について

次に、三号買受適格を有するに過ぎない者に、第三者に対してなされた農地法三六条に基づく売渡処分の取消しを求める法律上の利益があるか否かにつき検討する。

農地法三六条一項三号は、売渡しの相手方(三号買受適格者)につき、「自作農として農業に精進する見込みがある者(中略)で農業委員会が適当と認めたもの」として抽象的且つ規範的要件をもって規定しており、同文言自体から三号買受適格者として売渡しをするかどうかについては、同条同項一号の場合とは異なり、行政庁(農業委員会等)が農地法の目的に即して政策的、技術的に決定すること、すなわちその合理的な裁量に委ねることを当然の前提としていると解され、このように解することが、耕作者の地位の安定及び農業生産力の増進を図るとの農地法の目的に沿うものと考えられる。

確かに、三号買受適格者は、第三者に対する売渡処分が取り消されたときは、抽象的には当該農地の売渡しを受ける可能性がないではない。

しかし、このように、三号買受適格を有する者が抽象的には農地の売渡しを受け得る可能性を有しているとはいっても、その可能性が実現するか否かは行政庁の自由な裁量に委ねられているものである。このような抽象的な利害関係を有するに過ぎない三号買受適格者について、当該農地について第三者に対しなされた売渡処分の取消しを訴求しうる地位を認めるのは相当でない。

したがって、第三者に対しなされた農地法三六条による農地売渡処分について、当該農地につき三号買受適格を有するに過ぎない者は、右処分の取消しを求める法律上の利益を有する者にはあたらないと言うべきであり、三号買受適格を理由とする原告の主張は失当である。

三  本件土地の時効取得について

原告は、本件土地について自己のために時効が完成した後に、洋子が本件売渡処分を受け、これに基づき洋子が本件土地について所有権移転登記を経由したこと等をもって、自己には洋子に対しなされた本件売渡処分の取消しを求める法律上の利益があると主張する。

そこで検討するに、国(農林水産省)の所有する本件土地に関して、原告につき取得時効が完成した後に、洋子に対する農地法三六条による売渡処分がなされて洋子が所有権移転登記を経由し、その後に原告が取得時効を援用したとの原告主張事実を前提とした場合、原告は、先に登記を備えた洋子に対して通常は所有権の時効取得を主張できない結果となる。しかし、<1>国から洋子に対する売渡処分がなされただけでは、原告が所有権を時効取得しうる地位を失うわけではないし、<2>洋子が登記を備えた結果、原告が洋子に対して時効取得を主張できなくなったのも、原告が先に取得時効を援用してその旨の所有権移転登記を経由しなかったことに起因するものであって、洋子に対する売渡処分がなされたこと自体を原因とするものではなく、<3>原告が取得時効を援用したのは売渡処分及びこれによる所有権移転登記の後であり、本件売渡処分の時点では原告が確定的に所有権を取得していたわけではない上に、<4>洋子と原告との所有権の帰属に関する紛争は、その間の私法的処理に委ねるのが本則と考えられる等の諸点を考慮すれば、洋子に対する本件売渡処分がなされ、その旨の所有権移転登記が経由されて、原告において洋子に対して本件土地の時効取得を主張できなくなったとしても、本件売渡処分自体が原告の権利又は法律上保護された利益を侵害したということはできず、原告には、本件売渡処分の取消しを求めるについての法律上の利益を認めることはできない。

四  結論

以上の次第で、原告の本件訴えは、原告適格を欠く不適法なものであるから、却下することとする(なお、原告は、本件取消請求の対象たる本件売渡処分に「農地法三九条の規定による売渡通知書の交付を含む。」とするが、右交付は本件売渡処分の告知方法(但し、これにより処分の効力を生ずる。)に過ぎず、取消請求の対象となりえない。)。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 舘内比佐志 北岡久美子)

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